大学院の博士課程に進むとなると、経済的な支援が受けられるかどうかがまず重要になってきます。博士課程で貰える経済的支援の中で代表的なものとして、日本学術振興特別研究員(通称:学振)の制度があります。
学振は、博士一年時から生活費(月20万円)が支給されるDC1と、二年時以降から支給されるDC2の2種類があります。
博士進学前にDC1の申請書を提出し、採用されると博士課程在学期間中は支給が受けられますが、不採用だと次の年にDC2のための申請書を再度提出し、採用されればその年から支給が始まる、という仕組みになっています。
ちなみに採用率は、分野によりますが倍率5倍をちょい上回る程度です。
申請書に記載する内容は、細かい項目はあれど、大きく分けて次の3つで構成されます。
・研究の背景・概要
・採用後に行う研究の計画
・研究者としての自己分析
ところで、採用・不採用は、申請書の良否というより「審査員が誰に当たるか」に強く依存する、という意見をよく耳にします。要するに、誰の手に申請書が回るのかという、運ゲー要素が大きいということのようです。
しかし、「否」の申請書には運が宿るはずはなく、どのみち「良」の申請書を書くことは採用の必要条件となってきます。
私は、博士一年時から給付されるDC1には不採用でしたが、二年時からDC2に採用されました。
そこで、今後申請書を書く機会が増えることを見据え、不採用時と採用時の申請書を分析し、自らの申請書作成のノウハウを蓄積させようという目的で、本記事を書くに至りました。
本記事では、申請書に記載する3つの内容のそれぞれについて、私が重要だと思ったことをまとめています。学振以外でも、例えば企業のES作成やその他資金獲得の申請などにも、考え方自体は応用できる(特に3つ目)と思うので、参考になれば幸いです。
研究の背景・概要で心掛けたこと
◆多くの読み手が興味を持つような内容・表現を心がける
これまでの研究概要や背景は申請書の導入パートであり、ここで重要なのは読み手が研究に対して興味を持つかどうかです。
幅広い読者を想定し、「面白そうだ」と思わせる内容や表現を駆使することを心がけるのです。
ただし、あまりにも幅広いと、その後に記載の具体的な研究内容との繋がりが見えなくなるので、やり過ぎは注意すべきだと思います。
◆専門用語は避ける
専門用語を使うことは、「この知識についてはあなたはご存知であるはずだ」ということを読み手側に対して前提とすることと同義です。当たり前ですが、分野外の人には用語の意味は伝わらず、文脈から意味を推測するというプロセスを踏むことになるのですが、これは脳のリソースを割くことになります。(日常会話において、自分の知らない名詞を次々と耳に送り込まれるとストレスを感じるのはこれが原因だと私は思います。)
審査員と言っても、各々バックグラウンドは多岐に渡ると思います。さらに、審査員の方々は多忙です。専門用語の乱用は、審査員の脳のリソースを割かせてしまうので、当然ながら悪い印象を与えてしまうでしょう。可能ならば、専門用語の使用は避けるべきです。
しかしながら、申請書において、どうしても専門用語を使わざるを得ない時が度々でてきます。その際は、あくまで例えですが、次の文章
「量子力学に基づき研究を進める」
を、
「ミクロな現象を記述する量子力学と呼ばれる学問に基づき、研究を進める」
のように、「量子力学」という専門用語(もちろん科学の世界では専門用語でも何でもないですが、、)の補足説明が新たに必要となります。
研究計画で心掛けたこと
◆研究の着想に関してストーリー性を持たせる
「どういった経緯でその研究を思いついたのか」も、研究者の能力としての評価されるようです。
当たり前ですが、計画される研究は過去にやられていない、つまりは新規性があることが必須です。そのため、以下の2点が必ず言えるはずです。
・その研究がこれまでやられてこなかった理由は何か?どんな障壁があったのか?
・その障壁が何故今乗り越えられそうなのか?
この2点が伴うことで、「新規性のある研究であること」「研究着想の経緯」がうんと伝わり易くなると思います。
2点目に関しては、これまで得られている研究結果があるならば、「〜の結果を出している自分にしか、この障壁を乗り越え研究を進めることが出来ない」というロジックを使うことも効果的でしょう。読み手に「この研究の遂行は中々ハードそうだけど、この人になら任せられそうだな」と思わせることが出来るかと思います。
◆想定される困難は何で、どうカバーするのか?
研究を進めていると当然、うまくいかない場面(実験に要する時間的・金銭的コストなど、、)に必ず直面します。
「どういう困難が想定され、直面した場合どうやって切り抜けるのか」が申請書の段階で記載されていると、読み手に対し「この計画はしっかり練られているな」のようにポジティブな印象を与えると思います。
研究者としての自己分析で心掛けたこと
◆能力を研究においてどう活かすのか?
学振の自己分析では、自身の能力をアピールするための記載項目があります。
ここで重要なのは、その能力の研究における使い所は何処か?ということを改めて考えることだと思います。
「コミュニケーション(一般に世間がいう情報伝達のこと)能力」を例に取り、不採用だった私の申請書内の該当箇所を抜粋します。
「自分の研究以外にも興味を持ち、討論することが私の強みである。」
一見聞こえは良いように思えますが、これは「私はコミュニケーション能力がある」としか言っていないに等しいもので、あまりよろしくない見本です。
コミュニケーション(討論)を行った結果「新たな研究の方向性を見出した」「データに対する別角度からの視点を得た」「専門家の知恵を自らのものとした」のように、「コミュニケーションにより研究における何らかの価値が生み出せた」ということまで、具体的に記載すると良いと思います。
◆お金をもらうことで初めて得られるものは何か?
学振の申請書では、今既にある能力だけではなく、「今自分に足りてない能力は何で、今後どう身に付けて行くか」に関しても記載が求められます。
「学振のお金を貰えることで初めて向上可能となる能力」を改めて考えると良いと思います。
単に「〇〇の知識を深める」「〇〇の資格を取る」だと、お金をあげる立場からは「それ支給がなくてもできるでしょ。どうぞご自身で勝手にやって下さい」となってしまうかもしれません。
まとめ
今回は、博士課程への経済支援制度である学振の申請書を書く際に、私が心掛けたことを纏めました。
心掛けたことは、以下の6点です:
・多くの読み手が興味を持つような内容・表現を心がける
・専門用語は避ける
・研究の着想に関してストーリー性を持たせる
・想定される困難は何で、どうカバーするのか?
・能力を研究においてどう活かすのか?
・お金をもらうことで初めて得られるものは何か?
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